【歴代朝ドラヒロインに注目2】『おしん』谷村しん/『虎に翼』佐田寅子 。時代の生きづらさ、常識を疑う女性の成功譚
連続テレビ小説「通称・朝ドラ」。録画や配信による視聴が当たり前になり、夜に朝ドラを見る人も増えた昨今。自分自身の人生や社会のあり方を考えるためのきっかけを朝ドラがもたらすことも。ヒロインたちの人生から朝ドラの魅力を探ります。フリーライターの木俣冬さんにおすすめを教えていただきました。
目 次
谷村しん/『おしん』(1983年度 放映)
奉公に出されるおしんと父母の最上川での別れのシーンは多くの人の心に焼きついた。少女時代を演じた小林綾子は一躍大スターに。
時代を予見し警鐘を鳴らした橋田壽賀子さんの代表作。
40年以上も前の作品ですが、朝ドラといえば『おしん』というほど圧倒的な知名度で、日本のみならず世界中の視聴者の紅涙を絞った名作ドラマです。
放送されたのは1983年。バブルの予感が漂い、男女雇用機会均等法の成立を目前に控えた時代背景がありました。
「資本主義がどんどん拡大し、大事なのはお金、核家族化も進んで、という時代に、脚本の橋田壽賀子さんはこのようなことで本当に日本人は幸せなのか、立ち止まって考えてみてはどうか、という気持ちを込められていたのでは、と感じます」(木俣さん)
明治期に山形県の寒村に生まれ、口減らしとして7歳で奉公に出されたおしん。貧困のどん底で大変な苦労を味わい、やがて結婚や戦争を経験し、後にスーパーマーケットの経営者として老後を迎えます。
「女性がどう生きるかをちゃんと俯瞰して描いた作品です。話はシンプルでわかりやすい女性の成功譚ではありますが、社会をどうちらえるべきか、その中で希望を失わずに生きることの価値を描いた王道的な作品です。」
佐田寅子/虎に翼(2024年度前期 放映)
男女平等、戦争犯罪、国籍問題に夫婦別姓 ......さまざまな問題の種がぎっしり詰まった ドラマはそれらを考えるきっかけになりそう。
今も続く女性の生きづらさに疑問を投げかける。
いつまでたっても上がらない女性の地位や発言力の低さ、#MeToo運動などに見られる生きづらさ。 24年度前期の『虎に翼』が大きな反響と支持を得たのは「ここ数年のそうした忸怩たる思いがあって、憲法14条の下でのあらゆる国民の平等を謳うドラマに、女性たちが代弁者を見つけたということではないでしょうか」(木俣さん)
伊藤沙莉さんという得難い俳優が主演をつとめ、日本初の女性弁護士、判事、家庭裁判所長官となった三淵嘉子をモデルに描かれたヒロインの人生。
「『赤毛のアン』のアン、『若草物語』のジョーのようにとても聡明ではあるが、ちょっと面倒くさい女の子が成長し学びを得て、心底聡明な人になり、 周りにいい影響を与えていく。そんな少女小説の物語の典型に寅子が重なっていきます」
長いものに巻かれず、常識を疑い、「はて?」と問いを投げかけ続ける。社会にも自分の生き方にも疑問を持ち続けることは実はとても豊かなこと。
そんなメッセージが寅子の「はて?」には込められているようです。
選んだ人
木俣 冬/きまた・ふゆ
フリーライター
著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)、『ネットと朝ドラ』(blueprint) など。朝ドラのレビューは『CINEMAS+』で配信中。
『クウネル』2024年11月号掲載 イラスト/宇多川新聞、 取材・文 /船山直子