フランス人アーティストが故郷南仏をイメージしてアルプスの山間に建てた家。壁は白の漆喰や木、床はテラコッタに

日本に暮らすフランス人のインテリア。魚や自然界の生物をモチーフにした愛らしいイラストを描くフランス人アーティスト、エチアン・ボルメランジェさんと妻が暮らすアルプスの山間に建つ家を訪ねました。
豊かな自然を享受できる、森の中の南仏スタイルの家。
「日本のミステリアスさに惹かれ、神社仏閣や美術などの文化に憧れていた」というエチアン・ボルメランジェさん。フランスに赴任中だった日本人の妻とパリで出会い、結婚。フランスから〝夢の国〟の日本に来て20年になります。13年前、家を造るにあたり、「母国を離れて暮らす夫のため、せめて家はフランス風に」という妻の思いもあり、思い出深い南仏の実家のイメージを取り入れました。

「テラスで家族や友人と食事をしながら過ごすことも多いし、室内やテラスからの眺めがあってこそ、家がすばらしいものになります。だから、庭も家の一部だと思っています」
「まずは、標高も、眺めのよさや自然環境も似たこの土地を探しました。南仏の家は歴史的な石造り、壁は白の漆喰や木、床はテラコッタ。だから、この家も白を基調に、床はフランスやイタリアのテラコッタ、壁にはタイルや木と、南仏の家を思い起こさせる素材を使いました」

クラシックなフレンチスタイルの庭。庭の手入れは、特に春夏は月に数回、自ら行う。「庭も部屋と同様、少しでも乱れていると落ち着かなくてすぐ綺麗にします。庭や木々もきちんと整っていることが、家での生活を楽しむのに大切です」
そんなこだわりを貫いた家はエチアンさんにとって、「よく休み、働き、食事し、創作して、友人を迎えたり──すべてが心地よく暮らせて、何をするにもワクワクするところ」といいます。毎年、子どもや孫がいる母国に帰りますが、ここに戻ってくるのがいつも楽しみだそう。
「本来、繭を意味するフランス語、cocon(コクーン)には、〝自分だけの快適な場所〟という別の意味もあるのですが、まさにここは私のcoconです」

サロンからの眺めがとても好きな2人は、いつもこのソファに。ここは「魚が生息する水があることと、眺めがいいこと」という2つの条件をかなえてくれる場所。山脈からの川の水が注ぐ灌漑用水路があり、そのせせらぎの音が聞こえる。そして鳥のさえずりや虫の鳴き声。木々や花の香り……。季節毎に変化する自然の景色だけでなく、音と匂いと五感を楽しめる家。
窓のサイズと位置にこだわる

リビングの窓からの裏庭。遠景には八ヶ岳を望む。
南仏の古い家では窓を小さくして暑さを遮るという伝統があり、エチアンさんも窓を大きくすることに反対だったそう。でも、建築家の提案でサロンは開放的な大きな窓にしたことで、眺めもよくて結果的にはよかったといいます。それ以外の部屋の窓は施主のこだわりが反映。

「キッチンからの眺めが、料理をするのを一層楽しくしてくれます」
と妻。シンクは夫のリクエストで選んだ陶器製。
タイルやテラコッタ素材を多用する。

白いタイルを壁や棚など各所に使い、家中のすべての床は素焼きのテラコッタ。キッチンとダイニングの間のタイルの棚には日常使いする食器を収納。棚に扉がないのは「一目でわかるし、取り出しやすいのと、デコレーションとしても楽しめるから」。テラコッタの床は、夏は素足に感じるひんやりとした感触が気持ちよく、冬は床暖房の効果もあり暖かい。
装飾は最小限、整えてきれいに保つ。

アトリエのデスクからも八ヶ岳を一望できる。
「快適に過ごすため、家の掃除はまめにします。整然として何もないスペースが、私の思考と創造のためにとても大切です」
「南仏の家には代々受け継がれていたものも飾ってありますが、ここではごくわずか」。
PROFILE

エチアン・ボルメランジェ/Etienne Vormeringer
魚や自然界の生物をモチーフにした愛らしいイラストを描くフランス人アーティスト。パリ出身。妻とアルプスの山間に暮らす。著書に魚愛溢れるイラストとエッセイの作品集『人と魚の不思議な関係』がある。貸別荘『アルプスシャレー』も運営。
『クウネル』2024年9月号掲載 写真/加藤新作、取材・文/黒澤弥生