70代ボタンジュエリーアーティスト・片山優子さんが通う「東京のボタン専門店」3選

ボタンを用いたアートジュエリーを制作しているアーティスト・片山優子さん。40年間スタイリストとして活躍されていましたが、56歳でボタンに出会ってアーティストへ転身。そんな片山さんが通う、東京にある「ボタン専門店」をご紹介します。今回のお店紹介を通じて、ボタンという小さな世界に広がる、とっておきの魅力を楽しんでみてください。

ボタンとの運命的な出会い

気づけば、ボタンと触れ合う日々もおよそ15年になります。ボタンを使ったアートジュエリーを作るようになるまで、長年広告のスタイリストをしていました。

ある日、アパレル関係の打ち合わせの現場で「ボタンの見本帳」が捨てられているのを目にしました。もったいないと思い、ボタンを持ち帰って、色や素材ごとに分けて瓶に詰めていたことが始まりです。

その後、ヘアメイク雑誌の撮影でスタイリングを考える際、ボタンを使ってコスチュームジュエリーを作ってみたことが、現在の活動につながっています。

私の首飾りの作品です

今では多くのボタン屋さんと親しくさせていただいています。特に海外のボタンの歴史は、洋服の歴史と同様に奥深く、まだまだ学びたいことがたくさんあります。

戦後の日本のボタンの歴史についてよく知る方も少なくなってきており、貴重なお話を伺える機会は限られています。

京都の『エクラン』の本間さんには多くのことを教えていただき、ボタンコレクターの当間さんには、実際にコレクションに触れさせていただいたりと、今も学びの途中です。

『ユニクロ』の服もボタンを変えるだけで見違えるなど、ボタンの計り知れない魅力を感じています。「それどこの服?」とよく聞かれます。

コットンブラウスの襟元にボタンを刺しました。

『ギャルソン』のジャケットに黒のボタンを。

私なりの見解ですが、ボタン屋さんにはそれぞれの個性があり、男性がオーナーのお店は、制作工程や素材に対するこだわりが強く感じられます。

一方で、女性オーナーのお店は、直感で選ばれた優しくて可愛らしいボタンが多く、触れて楽しいものが中心のように思います。

もちろん、すべてがそうというわけではありませんが、それぞれのスタイルに魅力があると感じています。

今日は、私の行きつけのボタン屋さんの中でも、東京の名店をご紹介します。

1_日暮里『エル・ミューゼ』

生地やソーイング関係の専門店が並ぶ日暮里。そんな日暮里繊維街内に、1989年にオープンしたボタン屋さんです。

小さい頃のおもちゃ箱を思い出すような店内のボタンたち。

オーナーは石原泰子さん。私より少し年上のとても魅力的で個性的なマダムです。

ほとんど毎年ヨーロッパへ自ら買い付けに行かれるほど、行動力にあふれた方。その姿勢から、ボタンへの深い情熱が伝わってきます。

オーナーの石原さんと。

石原さんがボタンに魅せられたきっかけは、かつてパリの青空市で出会った、子ども向けの小さなボタンシートと聞いています。うさぎが買い物かごを持っているという動きを感じるデザインで、なんとも言えない可愛さに魅了されたそう。

1989年の創業以来、35年にわたりボタンの世界を探求し、お店を続けてらっしゃいます。

最近は、これまでで一番ボタンの需要が高まっているそう。「私のお気に入りのボタンから売れていくの」と、笑顔で話してくれました。

衣装制作に携わるスタイリストや、おしゃれな男性のお客様も多いのだそう。日暮里という土地柄もあり、幅広い層の方が訪れているようです。

取り扱いのボタンは、フランスからの仕入れが多いそう。中にはイタリアのものも。

年代は50年代から60年代が多いようです。

オリジナルのシートに仕入れたボタンを縫い付けています。

以前は、“実用品”としてのボタンが求められることが多かったそうですが、今は、コレクションとして楽しんだり、ボタンそのものの魅力に惹かれる方が増えているとお聞きしました。

私自身、店内に足を踏み入れた瞬間から心が躍り、どこから見始めたらいいか…。気づけば、あっという間に時間が過ぎていました。

きれいな色やデザイン可愛いボタンが所狭しと並び、石原さんをはじめ、ボタンを愛するスタッフさんが丁寧に相談乗ってくださっていることもとても印象的でした。

スタッフに方々にもお世話になってます。

エル・ミューゼ

住:東京都荒川区東日暮里5-34-1
Instagram:@l.musee_bouton

※近々バックヤードを改装し、店内スペースを広げるリニューアルを行う予定

2_銀座『ミタケボタン』

次は銀座にあります『ミタケボタン』です。1946年設立ということですから、戦後すぐに創業されたと知って、とても驚きます。現在の店主は、3代目の小堀孝司さん。

ビルの5階にあります

店主の小堀さんです

私の記憶にあるボタン屋さんというと、手芸用品のほかに日用品も並んでいるお店が多かったのですが、ミタケボタンは創業当初から、ボタン一筋。服に対するこだわりと意識の高さには、思わず敬服してしまいます。

1964年の東京オリンピックの年、映画『007は二度死ぬ』のロケでショーン・コネリーが演じるジェームズ・ボンドが、当時の外観前に。その写真が載ったショップカードは、今も大切に残されていて、歴史を感じる一枚です。

ショップカード。

イタリアを中心としたセレクトが多く、アンティークやヴィンテージボタンも多く取り扱っています。

中でも、私がよく選ぶのは今はもう手に入らないイタリア『ローリス社』のボタン。

お気に入りの『ローリス社』のボタンです

小堀さんからいろいろなお話を伺うのも楽しみの一つ。ボタンの歴史イコール洋服の歴史を感じる、とても貴重な時間を過ごすことができます。

現在の大きめ、ジュエルボタン

フランス・パリにあったアトリエ『ルネマルシャン』のボタン。フランスオートクチュールボタンを作ってました。70〜90年代まで独占的に輸入していたそう。

イタリア・ミラノにあった『マランゴーニ社』。スカラ座の舞台衣装を作ってたアトリエの50〜60年台のデッドストック。現在マランゴーニは美術学校になってます。

そのほかにも、オリジナルボタンも制作されています。

お客様のなかには、国内のデザイナーさんだけでなく、海外から訪れる方もいらっしゃるそう。オーダーメイドの服のために生地を持ち込んでボタンを選ぶ方、服の雰囲気を変えたいとボタンを探しに来る方、アクセサリーづくりの材料として訪れる方など、用途もさまざまです。

1950年代のフランス・パリのアトリエ『ロジェ・ジャン・ピエール』のボタン。周りは真鍮、中心はセルロイドアセテート。

メンズボタンにも詳しく、知識もとても豊富なミタケボタンです。

2010年発行の『クウネル』にミタケボタンが取材されていました。

当時の表紙に映るものと同じボタンと一緒に撮影してみました。

こんな昔の本にも掲載されています。

ミタケボタン

住:東京都中央区銀座1-5-1 Holon Ginza II, 5F
https://mitakebuttons.com/cms

3_東神田『CO-(コー)』

東神田にあるボタンショップ&ギャラリー『CO-(コー)』の店主・小坂直子さんとは、もう10年ほどのお付き合いになるでしょうか。

きっかけは、阪急百貨店のフランスフェア。店頭でボタンを見ていたときに「片山さんですか?」と声をかけられたんです。それが直子さんでした。「人気のボタン屋の店主さんが、私のことを知っていただいてる!?」と、嬉しかったことを覚えています。

4年前に『CO-』で開催した個展のとき

それ以来『CO-』では2度にわたり、企画展を開催していただいています。海外でも精力的に活動されている直子さんの行動力にはいつも驚かされます。

直子さんがボタンに心惹かれたきっかけは、ロンドンでのこんなエピソード。蚤の市でアンティーク缶を買ったところ、中にはボタンが2個入っていたそうです。その数日後、今度は街角で見知らぬ女性に突然「これあげる」と声をかけられ、ボタン5個を手渡しされたのだとか。

そのボタンはなんと、蚤の市で買った缶の中に入っていたアンティークボタンと全く同じものだったそうです。「これは運命だ!」と思って、ボタン屋になることを決めたと聞いています。

さらに直子さんは、2020年に憧れの「ベツレヘムパールボタン」を探して、聖地・ベツレヘムへ。「もう作れる人はいない」と言われていた中で、奇跡的に現地の職人さんと出会えたそう。

その後、コロナ禍でしばらく現地に足を運べない時期が続きましたが、3年越しに再会を果たします。毎日のように工房に通い、ごはんも一緒に食べながら、「一緒に素敵なものを作っていこうね」と約束を交わしたのだそうです。

キリスト生誕の地、ベツレヘムの美しい細工を施した貝ボタン。

今年はインドが気になるそうで、1月にジャイプールへ。そこで出会ったのが、男性の正装に使われる華やかなハンドペイントのボタン。今、オリジナルのボタンを制作中とのこと。楽しみです!

CO-の世界感を感じるボタンたち。

直子さんのお店は、“想像”と“創造”の世界がぎゅっと詰まった場所のように感じます。古いボタンの多くは、実用性がないものばかり。でも、だからこそ想像が広がる。そんな、不思議でおもしろいボタンたちが集まっています。

CO-

住:東京都千代田区東神田1-8-11 森波ビル
Instagram:@co_shop

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この記事の
プレミアムメンバー

片山優子

ボタンを用いて、想像を超えるコンテンポラリーアートジュエリーを制作するアーティスト。さまざまな年代と背景のボタンを用い、新たに愛と想いを吹き込むことで力強くも美しい作品を生み出す。CHANEL「ベストサヴォアフェール」にも選ばれた経歴を持ち、国内外でも注目を集めて幅広く活動している。
Instagram:@yuukokatayama

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