2018年にCHANEL「ベストサヴォアフェール」にも選ばれた経歴を持ち、世界からも注目を集めているボタンアーティスト・片山優子さん。プロのスタイリストを経て、56歳でボタンに出逢い、ボタンを作品を生み出すアーティストになりました。
現在の片山さんの創作活動や暮らしぶりから、毎日魅力的で、エネルギッシュにいられる秘訣に迫ります。
前編記事「スタイリストを経て、56歳でアーティストの道へ。ボタン作品を生み出す、片山優子さんのライフストーリー。」に続く、後編です。前編はこちらから
私が「世界で一番たくさんボタンを刺して、縫っている人」だと思っています。今の制作時間は、毎日だいたい12時間くらい。同じ時間でも、飛行機でヨーロッパに行くときは苦痛で苦痛で仕方ないけれど、制作している間はあっという間です。
◆世界でたったひとつ。ミリ単位までこだわり抜いた作品ができるまで
まず私の作品についてお話しします。刺すボタンの個数によって、1日で完成する作品もあれば、1週間以上かかる作品もあります。例えばボタンを700〜800個を刺す作品なら、1日約12時間作業して、完成まで1週間くらい。
まずは、作品の土台になる生地とボタンを選びます。次にたくさんある作品の型の中から、生地とボタンがマッチするものを探していきます。というより、【生地・ボタン・型】の3つが合ったときに制作をするという方が合っているのかもしれません。
ひとつひとつ手作業でボタンを縫い付けていきます。
作品をクールにしたいのか、可愛くしたいのか。完成形のアバウトなアウトラインとイメージはできていますが、ボタンの形状は個性豊かだから、最後の最後まで思い通りに行くか不安。だからこそ面白いのです。
ボタンとボタンを合わせていくと、思いもよらずにすごいのができた!という感動があります。もちろんその逆もある。そういうときは、全て解いてやり直します(笑)。1つ解いたら、周りも全部解かないといけないというときもある。大変です。
スキルが上がってくると、色々と理論がわかってくるので、苦しいときもありました。はじめの頃は勢いで、刺したいように刺していたのに、「鎖骨に合わせて、ボタンの位置を考えなきゃな」など悩んでしまうんです。
ボタンを刺す方向は平行か、垂直か、斜めか。それだけでも、まったく異なる表情の作品になります。だから、納得するまでこだわります。
また、気持ちが乱れていると、糸がピンと張ってしまうなど、作品へ影響があります。ボタンたちが少しでも魅力的になるよう、気持ちを整えてから刺すようにしています。
ボタンの大きさが8ミリか9ミリかどうか、見る人にはわからないかもしれないけれど、私はミリ単位でこだわりたい。ボタンが1ミリ違うだけで周りとの調和も違うし、輝きも変わります。
◆お客さんの声が創作活動の原動力に
私の作品を見てくれた人はみんな「可愛い!」って、必ずそのあと大切そうにボタンを触ってくれる。少女のような顔になることが、本当に嬉しくて。その姿をそばで見れることが何より幸せです。
私の個展にはさまざまな方がいらっしゃいます。お客さま同士で仲良くなって、次回の個展で一緒に来てくれたり。SNSで私の作品を気に入ってくださっている方同士が仲良くなったりすることもあるようです。
「その首飾りはどこで買えるの?誰が作っているの?と、街中で声をかけられました」「私も片山さんの作品持ってます、と話しかけられて仲良くなりました」そんな話もみなさんInstagramのメッセージで教えてくれますよ。
前回の企画展では、初日に100人も駆けつけてくれて、会期の半ばで作品の半分近くがなくなりました。
「ここぞという大切なときに、片山さんの作品をつけて行ったらパワーをもらえる」と言ってもらえたり。最近は教え子が「先生の作品を8年越しでようやく買えました!」と来てくれたことも励みになりました。
スタイリスト時代のお付き合いと、ボタンに触れ合う毎日になってからでは周りの人達との繋がりもずいぶん変わってきました。
ボタンは生地と生地を繋げる用途なのですが、今では人と人を繋げて行ってくれています。「ボタンが繋げる世界!ボタンで繋がる世界!」と、楽しんでいます。
◆余暇の過ごし方や楽しみなこと、健康法は?
少しプライベートも兼ねて買い付けで年1回くらい海外に行けて、月1〜2回友人たちとおいしいご飯を食べに行って、残りの時間はボタンに触れていればじゅうぶん幸せな毎日を過ごしています。
今はコロナで海外へ買い付けには行けていませんが、オンラインで買い付けをしたり、国内で一からデザインしてオリジナルのボタンを作ったり。買い付けに行けないことを嘆いても仕方ないので、日本で今できることをコツコツと続けています。
健康法というほどではないのですが、コロナになって意識するようになり、アトリエがあるマンションの7階までの登り降りは極力階段を使用するように。
あとは、角度を調整してふくらはぎが伸ばせる器具「ストレッチングボード」。トイレに立った時など1日3〜4回これで伸ばしています。最初は15度から始めて今は30度を達成。これで足がつらなくなりました。背筋も伸びます。
あるとき、お腹が空いていないのに3食摂ることに疑問を感じて、食事は朝晩の2食になりました。朝はしっかり食べます。間食はいただきものは喜んで食しますが、極力自分では抑えております。でもストイックには考えてはいません。少しだけ意識をすることで、体の調子はバッチリです。
1まわり下、2まわり下の年下の友達も多いので、パワーをもらっています。「片山さんみたいにずっと元気でいたい」って言われることがあるから、誰かがそう言ってくれる限り、頑張ろうかな。
◆デジタルの世界も恐れずに。まずはやってみること
コロナ禍で、アナログからデジタルの時代になったことをより実感しました。同世代では「デジタルはできない…」など諦めている人が多かったように思います。SNSの更新や電子マネー、ZOOMの打ち合わせにどんどんチャレンジしてみたり。孫とVRの世界で急流滑りをしたり、友人とVR体験でディズニーのお姫さまに会いに行ったりもしました。
最近少し気になっているのが『NFT』。バーチャルの世界でアート作品の売買を仮想通貨で可能な世界らしいです。高級ブランドも参加し始めていると聞きます。今いる世界とバーチャルの世界。どう進化していくのかとても知りたいです。
こんなふうに機会があれば、なんでもやってみたい!年齢にとらわれず、これからも色んなことにチャレンジしていきたいです。
◆今年で69歳。これからやりたいことは「アート制作」
この前、ダンサー・舞踊家の田中泯さんの生きざまを追ったドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』を見ました。
田中泯さんは、1966年からソロダンス活動をして、1978年にパリ秋芸術祭に招かれたことをきっかけに、世界中のアーティストの数々とコラボを実現している方です。即興による「場踊り」は、どこのカテゴリーにも属さない踊り。まさに、名付けようのない踊りでした。
映画を観て感じてしまったことが、私も死ぬまでにボタンで「名付けようのない作品」を作り出せたらと思いました。
今の作品は「身につける」という目的があるので、目的のない作品を生み出せたらと思いはじめています。首飾り、オブジェ、帽子、とか、カテゴリーされるものではなくて。それが何なのかはまだわからないですし、作れるかどうかわからないけれど。
今年と来年は個展を頑張って、再来年くらいから「名付けようのない作品」の制作に打ち込めたらと思います。パリ装飾美術館に私の作品が飾られるようになったらいいなということも夢のひとつです。死ぬまでに実現できたら嬉しいです。
片山優子/かたやまゆうこ
ボタンを用いて、想像を超えるコンテンポラリーアートジュエリーを制作するアーティスト。さまざまな年代と背景のボタンを用い、新たに愛と想いを吹き込むことで力強くも美しい作品を生み出す。国内外でも注目を集め、幅広く活動している。CHANEL「ベストサヴォアフェール」にも選ばれた経歴を持つ。
Instagram:@yuukokatayama
近日、片山さんの日々のファッションや素敵なボタン作品が生まれるアトリエを公開!どうぞお楽しみに。
◎前編記事「スタイリストを経て、56歳でアーティストの道へ。ボタン作品を生み出す、片山優子さんのライフストーリー。」はこちらから
写真/近藤沙菜 取材・文/阿部里歩