2014年より愛媛で暮らしはじめた、池田じゅんみさん。自然での暮らしに憧れながらも、ずっと都会で過ごしてきましたが、30代半ばで愛媛に移住を決意。今は、小さな自給自足をしながら、大好きな愛媛で楽しい日々を送っています。
移住を決めてから、今の暮らしに至るまでどのような出来事や葛藤、大変なことがあったのでしょうか。全4回にわたるショート連載で、池田さんの移住ストーリーをお届け。最終回は、池田さんの現在の小さな自給自足の暮らしと、これからについてお聞きしました。
▼池田じゅんみさん移住ストーリー これまで。
【vol.1】 都会から田舎への移住。愛媛に移住を決めたワケと、移住準備について。
【vol.2】 愛媛での移住生活。葛藤や大変だったこと、経済事情はどう変化した?
【vol.3】 愛媛で“小さな自給自足の暮らし”を満喫中! 移住してよかったこと。
都会から愛媛への移住から8年。今では“小さな自給自足”と、自分ができる範囲内で必要なものを調達しながら生活している池田さん。“小さな自給自足”とは、一体どんな暮らしなのでしょうか。
◆移住とともに念願だった畑仕事をスタート
「自宅の庭に、車1台分くらいの小さな畑を作りました。畑の他には様々な果樹やハーブなども所せましと栽培しています。ここでの暮らしがどんどん楽しくなってきて、デザインの仕事を大幅に縮小するほど、畑や庭づくりに夢中になっていきました。もともと保存食作りが大好きでしたが、移住後は食材を栽培するところからできることがとっても楽しいです」
「移住前はもっと広い畑が必要かと思っていたのですが、試行錯誤を繰り返しながら、小さな畑歴4年目を過ぎたあたりで、家族3人分の野菜をほぼこの畑でまかなえるようになりました。畑のスペースが小さい分、全体に目が行き届いて、管理がしやすいところが気に入っています。今では野菜を買う必要がなくなったことも、採れた作物をおすそ分けできるようになれたことも、とっても嬉しいです」
◆どんどん止まらない好奇心。
ついに1人で山へ行き、薪の調達まで!
「リビングに薪ストーブを設けました。寒い冬、薪ストーブをつけた暖かい部屋にこもるために、冬になるまで数ヶ月かけて薪を調達しています。この作業は重労働で危ないですし、とても大変なのですが、薪ストーブのためなら頑張れます。移住前は冬が苦手でしたが、今では冬が来ることが楽しみになりました」
池田さんは現在、地域の『女性林業研究会』に所属中。そこでは、チェンソーの安全な扱い方をはじめ、木の切り方の実習や森林整備、地域の小学校や保育園などで行われれる森林環境教室のお手伝いなど、山に係わる活動に参加しています。最近では、たった1人で山に出かけて、薪仕事ができるまでに。
「はじめは、なんという世界に飛び込んでしまったんだろう…!と、後から自分の行動に驚きました。移住前の私からしたら考えられませんが、身近な自然や植物のことを知りたくなってきて、思い切って、えいやっ!って新しいことにチャレンジしてみたんです。参加する度に、新しい知識と出会いに刺激を受けますし、山友達もできて、楽しみも視野もぐぐーんと広がりました」
山のことを知れば知るほど、山に魅了されていったそうです。
「山は水と空気を作ってくれて、いろんな生き物の住処となり、木材は暮らしを支えてくれて、心にやすらぎを与えてくれる。命に直接つながっていることを実感できました。危ないこともあるけど、正しい知識を学びながら向き合っていると、自然豊かなここでの暮らしがもっと面白くなってきます」
◆自分次第で広がる選択肢。
生きるテーマは“軽やかに”
「都会で育って、お金の収入を得る方法は知っていたけど、それ以外のことはあまりに無知すぎたと思います。たとえば薪ストーブで使う薪は “お金で買うもの”という消費脳でした。移住前までは、無意識にお金に頼りきっていた『消費』ばかりの日々。それがここでの暮らしで、自分を頼る『自給自足』の方向に少しずつ変化してくるにつれて、お金だけが収入ではないことに気づけたことが大きいです。内心はドキドキなんですけどね。ハードルが高いと怖気づいてしまうし、新しいことにはビクビクするし、勇気も要りますし。失敗も数え切れないほどしてきました。でも、いつからか“軽やかに”をマイテーマにしよう!と決めてからは、自分で自分の背中を少し押せるようになってきました。今まで、頭でばかり考えて行動に移さず、狭い視野の中で生きてきた気がします」
「私には山のことを教えてくれるお師匠さんご夫婦がいます。山暮らしで、長年森林組合にお勤めされていた方。山のことを質問したら、何でもていねいに答えてくださる、とっても優しくて素敵な方です。野菜の植え方やキノコ類の栽培に、野草や樹種の特徴や活用法、木の切り方に、刃物の研ぎ方、山菜の見分け方やあく抜きの仕方、こんにゃくの作り方や漬物などのお料理の数々まで、いつも快く教えてくだいます。わくわくしっぱなしで、楽しくて、あっという間に日が暮れてしまいます」
このお師匠さん夫婦との出会いも、新しい環境に参加し、行動したことがきっかけだったようでした。
「息子が通っている小学校の図書整備ボランティアに参加したら、そこにいた方とお互い“山が好き”と意気投合して、そのご縁でお師匠さんに出会いました。どこに出会いがあるかわからないものですね。愛媛での暮らしがとても楽しいので、誘われたら行ってみよう、苦手なことも経験してみようと、いろんなことを前向きになれました。そんな喜びが味わえる場所に出会えて、本当に幸せです」
◆大好きなこの土地で、これからも好奇心の赴くままに。
大好きな愛媛での今の暮らしについて、生き生きと話す姿がとても魅力的だった池田さん。最後に、これから大切にしたい生き方を尋ねました。
「愛媛にいたら、やりたいことがじゃぶじゃぶと湧き水のように出てくるんです。自分の好奇心の旺盛さに疲れてしまうくらいです(笑)。体はクタクタになるんですけど、不思議と心は満たされて元気になれる。だからこれからも、自分の好奇心の赴くままに “やってみたいことをしてみる”を続けていきたいです。自分の気持ちに正直に『好き』や『楽しい』を道しるべに、いろんなことにチャレンジしてみたいです」
移住して8年経ってもまだまだ今はスタート地点、と話す池田さん。自給自足の暮らしを少しずつパワーアップしたり、池田さんの目の前にはやりたいことがずらりと広がっている様子でした。
「今はまだ途中なのですが、夫と2人でセルフビルドで建てている山小屋を完成させて、オフグリッドの暮らしを体験しながら山の知識を深めていきたいです。材料の調達から竹かごを編んでみたいし、採取した草花や栽培した綿花で布を織ってみたいし、羊毛つむぎから毛糸を作って編み物をしてみたいし、まだまだ植物や野鳥のことももっと知りたいし…!世界一周旅行にも行きたいです!」
池田じゅんみさん
2014年より愛媛で暮らす。フリーランスで在宅デザインの仕事もしながら、小さな自給自足の暮らしを行う。その素敵な暮らしぶりをインスタグラムで発信中。夫は単身赴任中で、11歳の息子と2匹の愛猫(保護猫)と暮らしている。
Instagram:@junmiikeda
取材・文/阿部里歩