『エプロン商会』が’20年春に開いたエプロンの〝お店 〟、東京・港区の細い路地にある『西麻布R』。縦に細長いその店の奥に並ぶ2つのアンティークのチェストからは独特の存在感が漂っています。 運営する女性ふたりの、愛するエプロンへの思いがつまったお店の始まりの物語をお届けします。
エプロンショップでもある、2つのチェストがある 『西麻布R』 のオーナー、滝本玲子さん。フラワーデザイナーとして活躍し、時代の先端的なブティックのインテリアを花で飾っている市村美佳子さん。ふたりが8年ほど前に始めた、オリジナルエプロンのブランド、それが 『エプロン商会』 です。布好き、という共通項があるふたりが作るエプロン。
ヨーロッパや日本の骨董市などで見つけたヴィンテージのファブリックや、大好きなイギリスの生地メーカー『リバティ』のプリント生地が惜しみなく使われて、たっぷりと大らかな作り。どこかヨーロッパの田園の景色が重なってくるような、独特の存在感が漂います。1枚2万4000円くらいからと、決して安い価格ではないけれど、こういうのを探していたんですと言って、2枚3枚と買ってくれるファンも多数。大量生産の商品とは違う、センスと温かみ、個性的な表情のエプロンが見つかります。
ブランドが生まれた背景には、市村さんのある体験がありました。有名百貨店で、「好きじゃなかった」プリザーブドフラワーのデザイン、製作に携 わった市村さん。売り上げはよかったけれど、花を化学的に加工して保存するプリザーブドフラワーはどうしても性に合いません。作っているうちに生花への魅力を見失い、つらい気持ちになってしまったのだとか。3年ほど続けたその仕事を辞めて、さて、自分が 本当に好きなものは何だったのか、と見つめ直したとき、頭に浮かんだのはエプロンでした。
美容室を営む母に、エプロンを縫ってプレゼントした少女の日の記憶。イギリス旅行のお土産に贈ったリバティのエプロンをすごくいい、と喜んでくれたのも母でした。「エプロン屋さんをやってみようかな」、そう思い立った市村さんは、以前からの知り合いで、「周囲の女性たちの間では『おしゃれ番長』だった玲子さんにこんなことを考えているんだけど、と相談したんです。そしたらそれいいね、私も手伝う、って言ってくれて。思ってもいなくて、びっくりしました」。そこから『エプロン商会』の物語は始まりました。
いちむらみかこ
山形県出身。イギリスでフラワーアレンジメントを学び、「緑の居場所デザイン」を主宰。オーガニックフラワー研究会代表もつとめる。
たきもとれいこ
山形県出身。デザイン事務所を主宰し、雑貨バイヤーや店舗企画などに 携わる。2011年に「西麻布R」をオ ープンし、企画展などを開催。おしゃれ上手としても知られる。
『ku:nel』2020年11月号連載
写真 目黒智子/取材・文 船山直子