取材で多くのインテリアを見てきた写真家の柳原久子さん。撮影を通じ、住まいの見聞を深めた末にたどり着いたのは、「大きな箱」ともいえる、シンプルで自由度の高い家でした。
家を建てるというのは人生のビッグプロジェクト。ところが、写真家の柳原久子さんとデザイナーの夫は、家づくりに対してもう少し軽やかに考えていました。東京のど真ん中に仕事場兼住居(1軒目の家)を建てたのがいまから15 年前のことでした。
「15年間で街の様子が激変。暮らし始めた頃、周囲はのんびりした住宅街でしたが、どんどん開発が進んで落ち着かなくなってきたのです」
歳を重ねるにつれライフスタイルも変容。バリバリ都会で活動する時期を経て、暮らしの速度はゆっくりになり、自然をもう少し近くに感じていたいと思うようになっていました。
「不満を抱えながら住まいに暮らしを合わせるのではなくて、家ごと暮らしを変えれば?って思ったのです」
そんな自由な気持ちに至ったのは、 取材を通じて出会ってきた先達の存在が。住み替えに対して気楽で、そこから暮らしをアップデートしている取材者に何人も出会ってきたのです。
果たして、2度目に建てた家は森のような大きな公園そばの、気持ちのいい場所にありました。家の造作はいたってシンプル。鉄骨や天井の鉄板がむきだし、壁はベニヤ板貼りと、無駄な装飾は一切なしの箱型の家。
「箱の家をテーマとしている建築家に依頼しました。なるべくシンプルにしているのは、コストの問題もありますし、箱だけつくっておいて、後は住みながら自分たちで足していけばいいよね?っていう考えからなんです」
やなぎはら・ひさこ
雑誌や広告などで活躍するカメラマン。月に数回、スタジオを「なたね写真館」としてオープン。プロにヘア&メイクをしてもらい自然光でナチュラルなポートレートを撮影してもらえる。
https://natanephoto.com/
『ku:nel』2019年9月号掲載
写真 柳原久子/取材・文 鈴木麻子