60代エッセイストが19歳初めてのパリで見つけた「おしゃれ」。「風景に溶け込む」美しさを知る【メロウライフ】

広瀬さんメロウライフパリ

エディターの山村光春さんと、エッセイストの広瀬裕子さんによる往復連載。
「60代以降に使われる『シニア』という呼び方がどうもしっくりこない」という2人が、「私たちらしい人生の後半戦」について模索します。シニアでもなく、シルバーでもなく……。だったら「メロウライフ」なんていかがでしょう?

1年続けてきた「往復書簡」的連載ですが、今回で一旦お休みに入ります。熟成(メロウ)して、また戻ってくるかも?!最終回は「パリでの思い出」がテーマ。初めてパリを訪れたのは19歳だったという広瀬さん。その時にパリで見て感じたことは、その後の広瀬さんに大きな影響を与えたそうです。

初めてのパリでしたかったこと...それは、カフェで人間観察

はじめてのパリは、19歳の時でした。学生だけのツアーでヨーロッパを何ヵ国か巡るもの。南に位置するギリシャから入り、最後はロンドンというコースです。予定していた国のなかで最も楽しみにしていたのは、フランスです。そう。パリ!

高校生の頃からよく読んでいた雑誌を見ては「いつか行きたい」と思い描いていた、花の都(笑)。短い滞在中に「あそこに行きたい」「こういうことをしたい」とプランを膨らませていました。

広瀬さんメロウライフパリ

無数の飛行機雲を見ると「バリに来た」と思います

パリ到着。ガイドさんが最初に連れて行ってくれたのは、凱旋門です。そのあと、シャンゼリゼ通り、エッフェル塔。翌日には、モンパルナスも行った気がします。それ以外は、自由行動。ひとりで出かけても、ツアーの誰かと一緒でも、夜に戻ればOKという自由なものでした。

ツアーの人たちがあちこちへ出かけるなか、わたしのやりたかったことNO.1は、カフェに行き道ゆく人を眺めること。と、言っても、iPhoneもない時代です。どこのカフェがいいのか、19歳の初海外旅行東洋人にはわかりません。カフェに行き人を眺める、につき合ってくれる人もいません。結局、宿泊していたホテルからさほど遠くないカフェにひとりで行きました。当時はコーヒーが飲めなかったので、唯一できるオーダーは「アン・テ」(ちゃんと通じた)。紅茶を飲みながら窓の外をながめました。

広瀬さんメロウライフパリ

数年前のクリスマス時の凱旋門。

カフェに腰を下ろし、ずいぶんと長い間、そこにいたと思います。その時、気づいたのは、歩いている人たちの装いが、思いの外、シックだということでした。よく見るとおしゃれなのですが、遠くからわかるような派手さはありません。色もベージュや黒。同系色のグラデーション。時に彩りある小物。思い描いていたパリジェンヌ(ボーダー、ベレー帽、トリコロールカラー)は、その時、目にすることはありませんでした。

きっと、旅行者(わたし)がいるような場所ではないところに行けば、はっとするような着こなしの方もいるのでしょう。トリコロールカラーを身につけたリセエンヌもいるはずです(いてほしい)。でも、その時は、風景に溶けこむような服装の人たちばかりでした。でも、きれいなのです。やわらかな髪と髪色。白い肌。黒髪の人も、褐色の肌の色の人も、その人の持つ特性を活かしたうつくしさがありました。

広瀬さんメロウライフパリ

警察バイクのサイドカーにはフレンドリーなサンタクロース。

パリが教えてくれた「風景に溶け込む」というおしゃれ

広瀬さんメロウライフパリ

住まいの近くを流れる隅田川はセーヌ川と友好河川だそう。現在、隅田川の中央大橋には1992年にパリ市長だったシラク氏から贈られた彫刻「メッセンジャー」があります。

おしゃれというと目立つことや鮮やかさ華やかさがキーワードとして浮かびます。トレンドも。でも、もしかしたらちがうのかもしれない、と、19歳のわたしは思いました。何より印象的だったのが「風景に溶けこむ」だったからです。

同時に、その時、感じたのは、髪色と肌というのは、装いのなかで大きな位置を占めるということでした。ストレートの黒髪を長いまま下ろしていたわたしは、海外へ行き、はじめて自分の髪色と肌を意識するようになりました。

広瀬さんメロウライフパリ

それぞれのメゾンのクリスマスディスプレイもたのしみのひとつ。「単色使いが基本」とパリの友人。

その時のパリ滞在は、表面的なことだけでなく、わたしの深層心理に大きく影響したようです。何かを選ぶ際、洋服だけでなく、多くのものに対し「風景に溶けこむ」を無意識に、意識的に考えるようになりました。

だいすきだった雑誌が教えてくれたパリ。40年経ったいまも、わたしのなかで輝いています。

広瀬さんメロウライフパリ

19歳の時はエッフェル塔にも上り、エッフェル塔のブローチをお土産に。

~アフターメロウトーク~

山村光春ポートレイト
山村さん

この間、若い知人から「ファッションはいかに目立つか」という話を聞いたばかりだったので、あまりの真逆っぷりにびっくり!それほどファッションは、その人の思想と分かち難く繋がってるんだと再確認でした。

広瀬裕子のポートレート
広瀬さん

「目立たないようにしていても目立ってしまう」。それが粋というものでしょう。ファッションとはまたちがうのかもしれませんね。思想だけではなく、その時の立場、仕事、体調なども関わってきますね。奥深いです。

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広瀬裕子のポートレート

広瀬裕子

執筆のかたわら、50歳から空間設計の仕事をはじめ、現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどのディレクション、フードアドバイス等にも携わる。著書に60歳からあたらしい私(扶桑社)など多数。
Instagram:@yukohirose19

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