75歳伊藤千桃さんが語るお金のこと「貯金も保険も最低限だけど、その分生きることに一生懸命に」【アンコール記事】

これまでクウネル・サロンでご紹介した記事の中から、9月に読みたい記事をピックアップして編集しました。
「あれば安心」のお金ですが、どれくらい必要で、どんな風に使うのが快適かは、人によってちがいます。「これから」を見据えたお金との心地よい関係について元ミス日本、現在75歳の伊藤千桃さんに伺いました。
※記事の初出は2023年2月。内容は執筆時の状況です。
お金がないことを恐怖だと思ったことはありません
60代後半で初の著書を上梓し、それを機に、一躍メディアで取り上げられるようになった伊藤千桃さん。
豊かな自然に囲まれた葉山の山の上の家をベースに、民泊やケータリング業を営んでいます。
「雑誌に紹介してもらったりするのを見てか、『優雅でいいわね』なんてたまに言われるんです。でも優雅なんかでは全然無いのよ。我が家の家計を知ったらきっとみなさん驚くわね」と、あまり困ったふうでもなく笑う伊藤さんに、こちらが拍子抜けしてしまいます。

山の上にある家は、娘家族との二世帯住宅。「ありがたいことに家があるから、いまの私があります」
預金通帳を見てはため息、数年後の家計を予測しては頭を抱え......。そんな話をよく聞きますが、伊藤さんはいたっておおらか。幼少期には家の事業 が失敗、シングルマザーとして一男一女を育てと、山あり谷ありの人生でし た。
でも、「お金がないことを恐怖だと思ったことはない」と、言い切ります。「なんとかなると思っているし、その分、私が働けばいいんだし」と、実に頼もしい。お金に苦労している母親の傍らで育ち、大変な中でもどうにか切り抜ける様子を見てきたからこそ、「なんとかなる」と思えるのかもと自己分析します。
「お金が十分には無かったからこそ、『いまの私』はあるのかなと思います。もちろん、余裕のある人を見て、羨ましく思ったこともありました。でも、お金があったら、私はあるだけ使い、自分を甘やかしてしまっていたはず。無かったらこそ、頭を使い、手を動かし、工夫をしてきました。ものをひとつ買うのにもすごく考え、自分を律することも身に着いたかな。それが私の性格には合っていたんですね」

広大な敷地は「維持するのは大変だけど、暮らす幸せはそれ以上」。質素で豊かな生活はこの土地のおかげ。
財産といえば、亡き養母が遺してくれた家と広い庭だけ。そのことに感謝 しつつ、その財産を十分に活かすことを考え、暮らしてきました。
「シングルマザーとしてこの家で暮らすことになって考えました。家や庭の 手入れを放棄し、外に働きに出てお金を得るのと、私がこの場所を活用して仕事にするのとどっちがいいかな?」
そして、始めた「桃花源」。家の離れを旅人に開放し、得意の料理を詰めたお弁当をあちこちに届け、これこそ自分らしい仕事と胸をはります。
離婚をして自由になり、歳を重ねることが楽しみに
お金や生き方に対して、どっしり構えている伊藤さんですが、いつからそんなに達観しているのでしょう?
「40代で離婚をして、自由になったと感じました。50代、60代といつも歳をとっていくのが楽しみに過ごしてきました。体力が衰えたり、できないことも少しずつ増えたりしているかもしれないけれど、それはごく自然なこと。 その分、経験値が増え、対応力も上がり、ちょっとやそっとのことでは慌てない。人間は成熟していくにつれ、自由度も増すとは思いませんか?」

ヨーガンレールのシルクのシャツは、30年以上愛用。「当時の私には高価でしたが、長く着れば元が取れる」
貯金もないし、保険も最低限だけど…
さて、現在、70代ですが、「これからの備え」についても実に軽やか。貯金なんて全然ないし、保険も最低限しか入っていないのよと、笑いながら話します。病気など「もしも」の心配はないのでしょうか?
「子供たちには私が病気になったら延命治療しないでと伝えてあります。それで、亡くなったら献体するつもりで、もう病院に登録しました。解剖して医学の役に立ててもらい、骨になって戻ってくるんです。お葬式もしなくていいし、遺骨は山に撒いてほしいなと思っています。お墓があると遺された人たちが大変ですし、大好きな自然のなかでいられるのは幸せ」
日々生きていれば、心配なことも多いけれど、失敗を恐れずとにかく行動。案ずるよりも産むがやすしの精神で、前向きに生きてきた伊藤さん。
「お金を生むために、働くし、生きることに一生懸命になれる。大変だからこそ頑張れると思うのです」
『クウネル』2022年11月号掲載
写真/柳原久子 取材・文/鈴木麻子