沢野ひとしさん・苦しくない、私の片づけ作戦2/「一汁一菜」の献立を主として、使わなそうな調味料や道具を毅然と処分しよう

片づけと人の人生を見つめたエッセイが人気の沢野ひとしさん。すっきり整ったアトリエから、片づけが苦手な人たちに知恵を伝授していただきました。

私の片づけ作戦1/「10分間の片づけ」ルーティン化が人生の分かれ道からの続きです。

「床にものを置かない」

床にものがあると、人やネコの通行の邪魔になる。家を建てる時にやたらに「動線」を気にする人がいるが、そんなことより幾つもの余分なイスや、大きなソファが動線を塞いでいることに目を向けたい。

スリムな生活を目指すなら、床に置いた段ボール、座りにくい丸い木のイス、やたら大きな観葉植物、汚れた新聞立て、スリッパ立て、ヴィンテージステレオにスピーカー、ギターは撤去を考える。床は展示会場ではない。人が立ったり歩いたりする底面である。

床にものが多い家で長いこと暮らした人は、いつの間にか体がもっこり、もっさりしてくる。床にものがあり、素早く体が動かせないからだ。片づいている家は、とにかく床にものがない。床にものが何もない家の人は、体がスリムでヨガにもジムにも行かない。まず己の床と体をじっと見つめ着手したい。

コードレスでも充電コードは要るし。コード地獄はなんとかしなければなりません。

「キッチンを見渡す」

台所に調理道具を広げ、あるいは窓側にやみくもにぶら下げている人がいる。手作りの鉄のフライパン、おたま、人参しりしり器、ネットで購入した赤いほうろうのヤカン、北欧製の鍋、磁石の包丁、キッチンバサミ、工芸品のような竹籠、そこはまるで東南アジアの民芸品の屋台のように賑やかである。

昔の料理熱の産物や道具を買い替えたのに使い古した方を捨ててないことも?勇気をだそう。

美味しい料理を作りたいと願い、あれこれ購入するのは自由である。だが和食、中華、イタリアン、クスクス……と料理研究家ならわかるが、ごく普通の主婦は土井善晴さんの唱える「一汁一菜でよい」に再び憧れる。むやみに料理に凝るとやがて引き出しに調味料の瓶が溢れ、賞味期限が切れた食品が奥にひそみ、冷蔵庫には冷凍のお惣菜と、どこもかしこも満員御礼状態になる。

ご飯をふっくら炊ければ、後はアジのフライ、大根おろしにジャコ、ほうれん草のおひたし、豆腐のお汁。これで充分である。

我が家は一年中、延々と鍋が続く。鍋は料理に苦労することなく栄養的にも立派だ。湯豆腐から始まりカキ鍋、ちゃんこ、おでんと出口が見えないほど鍋がくる日も訪れる。長ネギ、白菜、大根、春菊、ほうれん草、ナス、トマト、とその時に安い野菜が参加する。

さすがにあまり続くと妻と口喧嘩になり、麻婆豆腐がうまい四川料理店、頑固親父の鰻屋、刺身の店と月に1、2度の外食に出る。妻もその時ばかりは「今度は孫たちも招待したいね」と晴々した顔をする。

キッチンも10分間片付けで、今後一生使わないものを毅然と処分する。旅で買ったモロッコの鍋、蓋が壊れたコーヒーサーバー、ハワイの椰子のかご、と全てゴミ袋に入れる。包丁も3本あれば良い。ざる・ボウル類も3個で足りる。せいろもいらない、引き出しの箸やスプーン、竹のバターナイフも多すぎ。

ペッパーミルや木製のハンドジューサーもゴミ袋にと、刑事の捜査のように目を光らせて、10分間捨ててゆく。後悔したらまた新品を買えば良い。エコバッグも2つまでとする。きれいな空き缶もこの際別れる。京都の楊枝も捨てる

「エコバッグは2つで良い」。誰しも異論なしの個数です。エコの矛盾は自分で取り締まり。

PROFILE

沢野ひとし/さわの・ひとし

イラストレーター・エッセイスト・絵本作家

1944年生まれ。『本の雑誌』創刊の1976年から表紙や本文イラストを担当するほか本、雑誌の挿画、山岳エッセイ等々広いジャンルで活躍を続ける。整理整頓の行き届いたアトリエを訪問した編集者の依頼で、片づけの悲喜こもごもと人生、人間を考察し書いた『ジジイの片づけ』が大きく反響を呼び版を重ねている。『ジジイの台所』『ジジイの文房具』とシリーズで出版が続く。

ジジイの片づけ』(集英社クリエイティブ)

『クウネル』2025年5月号掲載 文・イラスト/沢野ひとし、編集/原 千香子、プロフィール写真/渡辺達生

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『クウネル』NO.132掲載

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