おしゃれプロ2人からの提言/後編。50代以上は毎日がファッションクライシス?!シンプルな服ほど難易度高し

同じような服を着ていても、素敵に見えないのはなぜ?ファッションのプロの視点で、おしゃれ迷子のアウトな行動や着こなし上手になるヒントをモデルの黒田知永子さんと、スタイリストの地曳いく子さんに語っていただきました。前編/ファッションは生ものだからお刺身と一緒。いいものはずっと着られる幻想は捨てて からの続きです。

黒田知永子/くろだ・ちえこ
モデル
大学時代に『JJ』でデビュー、数々の女性誌でカバーモデルを務め、幅広い世代から支持を集める。Instagram:@kuroda_chieko

地曳いく子/じびき・いくこ
スタイリスト
おしゃれの悩みをズバッと斬る愛ある毒舌が人気。近著に『ババアはツラいよ!番外編 地曳いく子のお悩み相談室 2』(集英社)。
今っぽくきれいに見えるひと工夫が大人はマスト。

とにかく体型が昔とは別人くらい変わっているし、時代にフィットしない服は変えないと。変わることを恐れた時点で、もう老け街道まっしぐら。

たとえばスカートもすねくらいまでの長い丈やフルレングスのほうが七難隠して今っぽく見える。一方で体型を隠しすぎる服もどうかと思う。ガバッとしたワンピースは、着こなし方によっては体をもっと大きく見せてしまう気が。

体型を隠せる服ばかり選ぶ
「体のラインを包み隠してしまうようなワンピースも、面積が増えて体を大きく見せてしまいがち」(黒田さん)

よくいるのが、ただ服を着ましたという〝着っぱなし〟の人。20代だったらそのままさらっと着るだけでかわいいけど、大人はひと工夫が必要。私みたいに胸にボリュームがある人ならシャツのボタンを思い切りあけて着てみるとか、アクセサリーをジャラジャラ重ねてみるとか。それが〝着こなす〟ということ。

買った服をそのまま着るだけ
「トップスを前だけインする、ゆるめのパンツなら全部インするなど、今見えする工夫はマスト」(地曳さん)

今日は2人ともジャケットにワイドデニムですが、いく子ちゃんは主張の強いインディアンジュエリーが髪の色ともマッチしていてすごく素敵。こういうところでその人らしさも出せると思う。

「何を着ればおしゃれに見えますか?」という質問が一番困る。私も以前なら〝今年はこれを着ましょう〟〝50代に似合うスタイルはこれですよ〟って言えたけれど、この服を着ていればおしゃれに見える、という時代は20年前に終わっているし、50代以上は毎日がファッションクライシスと思ったほうがいい。

ファストファッションとハイブランドの服をミックスして着ていい自由な時代ですからね。

結局、何が似合うか、おしゃれに見えるかは、自分でジャッジするしかないんですよ。「私はあの人みたいに素敵に着こなせない」って上を見てがんばるより、似合わない服は潔くあきらめるのもひとつの選択肢。

憧れの人の着こなしがお手本
自分とかけ離れたおしゃれを真似るのは失敗のもと。「体型も顔も違えば似合うものが違って当然」(地曳さん)

私も娘がダボっとしたパーカーを着ているのを見てかわいいと思うけれど、私にはなんとなくしっくりこない。パーカーをおしゃれに着こなすには、合わせる服を工夫しないと、ゴミ出しに行くんですか?みたいになっちゃう。

シンプルな服をシンプルに着る
「パーカー、Tシャツ、デニムなどシンプルな服ほど難易度はアップ。着こなし力がものをいう」(地曳さん)

シンプルなものほど難易度は高いんですよ。シャツはもともと日本人の骨格には難しいから、無理して着る必要はないと私は思うし、重ね着も相当痩せていないと厳しいです。シンプルな小粒のパールのネックレスとかも、今つけると首のシワに埋まっちゃいますよ。

見せ方を変えないとね。

その逆もあって、昔は似合わなかったものが似合うようになることも。

本当にそう。今日つけているリング(『ヴァン クリーフ&アーペル』のアルハンブラ)も、若い頃はかわいくなりすぎて気分じゃなかったけれど、今はちょうどいいの。特にジュエリーは年齢を重ねてこそ似合うものがあると思う。

シワシワの手には輝きを!
肌や髪もおしゃれの一部。バランスは全体の印象で決まる。

あとはやっぱり、服以前に肌や髪をきちんと整えていないと、何を着ても絶対におしゃれに見えない。保湿をちゃんとするとか、髪にツヤを与えるとか、そういう日々の基本的なケアがこの世代には不可欠だと思う。

肌はカサカサ、髪はボサボサ
「シルバーヘアもお手入れが行き届いているから素敵に見えるのであって、ほったらかしはNG」(黒田さん)

ラクしてきれいになろうと思ったら終わり。1に保湿、2に保湿、おしゃれはそれからよね。メイクが古いのもおしゃれに見えないから、ファンデーションを新しくするとか。

肌がカサカサで厚化粧なのが一番老けて見えますよね。

おしゃれに迷ったらまずヘアスタイルや髪色をガラッと変えてみるのもおすすめです。髪が変わると似合う服も見え方も変わってくるし、私もブリーチして髪色を変えたら、明るい色の服が好きになっておしゃれの幅が広がりました。

私も髪型を変えるのは大賛成!まずは自分を鏡でチェックしてみることからですね。年を取ると老眼でヒゲが生えていても気づかない人とか多いので、まず鏡で顔をよく見て、そして全身鏡を玄関に置く。靴まで合わせてみないとバランスは取れないから。

おしゃれがわからない人は、全身鏡で見てないんじゃないかな? 最近は服を買うどころか試着すらしない人も本当に多いけれど、良さそうと思って着てみたらダメだった、ということが年々増えているのが現実。私自身、試着室の打率が昔は8割だったのが今は1割以下になっています。

全身鏡を持っていない
「試着しないで服を買う人も多いですが、実際に着て全身鏡で見ないとバランス感覚は養われない」(地曳さん)

試着は面倒かもしれないけれど、たくさんしたほうがいいですね。

センスを磨くには、いろんな服を実際に着てみることに尽きます。傷つきやすいガラスのシニア世代だから、中には似合わないと思い込んで、失敗を恐れすぎる人も多いの。でも着てみて似合わなかったら買わなければいいだけ。

もう傷ついている場合じゃないわね。この先どんどん劣化していくわけだから。でも、それでも少しはマシに見えるように努力をすることが大事。

自分の変化を利用してファッションも変えちゃえばいいんですよ。私もよくやるのですが、そのまま着て帰りたいくらいテンションの上がる「今、着たい服」をまず1枚買って、1週間のうち5日着回す。そうするといろいろな服と合わせるから自分のものになっていく。私たち世代の未来はそう長くないんだから、この先10年、20年ずっと着られるかなんて考えなくていいんですよ!

年齢の変化、ファッションの変化に対応していくのは大変だけれど、新たにまた違うおしゃれが見つかる楽しみも絶対にあるはず。

その違いを楽しめるかどうか。それがおしゃれな人とそうじゃない人の差だと思います。
『クウネル』3月号掲載 写真/加藤新作、ヘア&メイク/福沢京子(黒田さん)、イラスト/関 美希奈、取材・文/矢沢美香