【大草直子さんの提言vol.1】とびきり似合う2枚の服の「奥行きをつけていけば」、着こなしは安定します

ファッションエディター、スタイリストとして幅広く活躍する大草直子さんの新刊エッセイ『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス刊)が話題です。年齢を重ね、体型も心持ちも変化していく50代の大草さんが、「引いたり、足したり」をキーワードに、いまの自分にフィットする美容やファッションについて深く考察。

ファッション、スキンケア・下着選び・メイク・スカルプケアを見直すなど、大草さんが日々実践している大人のTIPS集から、とっておきのアイデアを紹介していきます。

気鋭のファッションエディターが本音で明かしたエッセイ『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス)から、一部を抜粋して紹介します。

「諦める」ことが実は大事

10枚服があったら、「特別に」似合うのは、たったの2枚。
これまで多くのモデルたちを見たり、自分で服を着たりして、気づいたことです。それは、どんな体型の人にも言えることで、10枚のうち、5枚くらいの「似合うかもしれない」服に自分を無理やり合わせることを、多くの人がしているように感じます。服は、勝負すべき相手ではなく、自分を魅力的に見せてくれるもの。何でも似合わないとおしゃれにはなれない、と服を組み伏せなくて良いのです。

そう、とびきり似合う2枚の服の「奥行きをつけていけば」、着こなしは安定し、とてもおしゃれな人になれるのだから、それ以外を簡単に諦めることができたら楽。

特に、40代になって、肉質がドラスティックに変わり、肌や髪の質感が過去とは違うものになったとき、その「残す」「捨てる」の基準はシビアになります。

私の理想は、二の腕にも背中にも主張しすぎない筋肉がのっている状態。すっと伸びた背中を意識しています

「あれ、昨日の自分と何かが違う」という日が続いたら、このジャッジをしたほうが良い。
私は、30代に入ったときに、膝を出すボトムス、スキニーなデニム、パステルカラーのトップス、ウールのリブタートルニットは捨てました。それ以降、クローゼットに復活することはなく、さらに少しずつ、ほかにも諦めるものが増えています。

その精査は、次のような自問からスタートします。
鎖骨を出す? ウエストのライン、ヒップの存在は隠す? 二の腕の後ろを隠せばバランス良い? 膝を見せる?

体型だけでなく、素材、色についてもやらなくてはならないので、少し面倒くさいです。ただし、やっておくと、その後の人生が楽。
自分で判断できなかったら、ふいに撮ってもらった写真で確認してみて。
「このスカート、ハイヒールを履けば着こなせる」「少しきついけれど、短時間なら着ていられる」など、エクスキューズがつく1枚は、結局「珠玉の2枚」には入らない、と覚えておくと良いでしょう。

これを基準に、手持ちの服や小物と向き合うのも、時には必要。かくいう私も、仕事柄、新しい分野に挑戦しないわけにもいかず、10年前に比べて、劇的に服が増えました。そうだ、言い訳をせずに、その作業、今日からやろう。

「もっと素敵な自分」は必要?

一時期、メディアが発信する「素敵な大人の女性」になれなくて、辛い時期がありました。朝は早く起きてヘルシーな朝食を作り、頼りがいと理解のある旦那さんがいて。可愛くて素直な子供たちに囲まれて、自分自身もいつもきれいでキラキラしている。

なんという自分との乖離か。

その当時の私は、終わらない仕事に追われ(自分で選んでいるので、文句を言えないのがまたしんどい)、子供の運動会も最後まで見られない、朝食作りと弁当作りはほぼ家族に任せていたような状況。メイクや毎朝の身支度も大慌てですませ、けれど、仕事先では、余裕があるような涼しい顔をしていました。

そんなとき、毎月連続していた海外出張先のホテルで、ついに気持ちと頭がいっぱいいっぱいになって、涙が止まらなくなりました。なぜ泣いたのかというと、勝手に思い描いた「自立したイケてる女性」になれない自分が悔しくて。

SNSに映る私は、本当の私ではないじゃないか。格好つけて、無理して、「人様が言うところの素敵な私」でいなくてはいけないのか? それは、私が望むことなのか?
そのときに決めました。素敵であることは、「誰かのため」ではなく「自分のため」――にしようと。

手元にお金をかけます。バングル、ブレスレット、時計。リングも大ぶりなものを数点組み合わせて

髪や肌のコンディションを美しく整える、毎朝メイクをする、印象的な着こなしを考える……は、決して他人のためではなく、自分のため。

最近、Z世代を中心に流行している「アグリーメイク」なんて、そのメッセージの最たるもの。眉なし、白塗り、これまでの概念で考えると奇抜で独創的! 「男受け」や「ステレオタイプの美しさ」のためではなく、メイクは、自分の楽しみと自己表現のため――ここまで思い切るのは難しいにしても、こうした意識の変化を見ることができるのは、心強い。

「もっと素敵な自分にと、そんなに追い詰めなくても良いよ」
今なら、そのときの私に言ってあげられそうです。

※本稿は『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス)からより一部を抜粋・編集したものです。

詳しくは発売中の本書を

見て 触って 向き合って~自分らしく着る 生きる

ファッションエディター、スタイリストとして幅広く活躍する大草直子さんの新刊エッセイ。年齢を重ねファッションや美容の考え方が変わるなかで、「引いたり、足したり」を軸に自分との向き合い方を説く。ファッション、スキンケア・下着選び・メイク・スカルプケアを見直すなど、大草さんが日々実践している大人のTIPS集。

見て 触って 向き合って~自分らしく着る 生きる』(マガジンハウス)
1,650円

大草直子/おおくさなおこ

ファッションエディター・スタイリスト。1972 年生まれ、東京都出身。大学卒業後、婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。雑誌『ヴァンテーヌ』の編集に携わった後、独立。2019年にはメディア『AMARC(アマーク)』を立ち上げ、「私らしい」をもっと楽しく、もっと楽にするために、ファッション、ビューティ、生き方のレシピを毎日発信している。
2021年には、「AMARC magazine」を発刊。ファッション誌、新聞、カタログを中心に活躍するかたわら、トークイベントの出演や執筆業にも精力的に取り組む。

イラストレーション/原 倫子

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