【柔道家・山口 香さん】相手と関わることで学んでいく柔道、 社会も家庭も同じだと思うのです
競技大会でも、大学の部活でも、常に「柔道界初の女性」と呼ばれ続けてきました。 大変なこともあったけれど、考えを伝えることで状況は少しずつ変わったと山口香さんは実感しています。
PROFILE
山口 香/やまぐちかおり
柔道家、筑波大学教授。1964年生まれ。小学1年生で柔道を始め、中学2年生で女子柔道の初めての全日本体重別選手権大会で優勝。ソウルオリンピック銅メダルなど数々の戦績を上げ、「女三四郎」と呼ばれた。現在は筑波大学にてスポーツをめぐる教育に携わる。友人たちと海辺の1軒家をシェアして暮らすのが夢。
相手と関わることで学んでいく柔道、 社会も家庭も同じだと思うのです
柔道ってアクションを起こさないと相手を投げることはできないんです。じっとしていたら負けるしかない。自分から技をかけてアクションを起こし、相手から返ってくるリアクションを受ける。そのやりとりを繰り返すことで強くなっていくんです」
なるほど、試合に消極的だとそれだけで減点されるのも柔道のルールのひとつ。山口香さんにとって、柔道のその基本は生きていく姿勢にもつながってきたようです。
「社会や家庭も似たようなところがあって、いろいろな人と関わり、話し合って対処し、経験値を上げていく、それで人は成長していくのでは、と思います」
女子柔道が公式競技となって開催された日本初の女子柔道の全国大会で13歳でチャンピオンとなった山口さん。オリンピックをはじめさまざまな国際大会で数々のメダルを獲得、輝かしい戦績を残しました。25歳で引退したあとも、指導者として、また大学の教員、オリンピックやサッカーなどの団体の理事として第一線で活躍を続けてきました。女子にも門戸を開くべきだ、という時代の流れにちょうど合ってチャンスに恵まれたのも確か。しかしどこへ行っても「柔道界初の女性」との呼称がついて回り、スター選手の一挙手一投足は注目を集めました。
「男の人ばかりの水槽に急に1匹ピラニアが入ってきた、みたいに周りから身構えられて。この女が口を開くとかまれそう、という感じなのか、すごく怖がられたみたいです」
スポーツ界はそもそも上意下達の体育会気風が支配的。それでも、考えていることを伝えないと人はわかってくれない、アクションを仕掛けて、そのリアクションを受けることでコミュニケーションは深くなっていく。そう信じて山口さんは歩んできました。
「これからは若い人たちを応援していきたい。女性たちのネットワークをつないで、それが力になるようにできたらいいなと思います。私のキャリアや〝ピラニア〟の本領を発揮して、若い女性たちが壁にぶつかったとき、乗り越える手助けができたら、と思います」
『ku:nel』2023年9月号掲載 写真/森山祐子、取材・文/船山直子
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