先ごろ発売されたエッセイスト・酒井順子さんの新刊は、大人の女性が京都を訪れるときに手に取ってほしい古都の考察&案内エッセイです。
光明皇后に始まり多くの皇女たち、紫式部や清少納言、北条政子や淀君など武家の女人、幕末・明治の烈女……など計50人近くの女人をフィーチャーし、時代を追って訪ねました。
従来の京都案内にはなかった視点
往時の生活や女性たちの心の置き所に思いを馳せて、ゆかりの地を巡りながらひとりひとりの本来の姿を浮かび上がらせる酒井さん。鉄道、バスを駆使しつつ、途中でおなかが減れば、おいしいものも!と旅は進みます。
私たちがよく知った(と思いがちな)名所も違う視点から眺める一方、観光客はもちろん京都の人もあまり訪れない場所も出てくるのも興味深いところ。
種明かし?にはなりますが、表紙カバーの裏に京都地図をデザインしてあるというアイデアもナイス。便利なだけでなくて、旅情をぞんぶんにかきたててくれます。
自由闊達で才気あふれる女人たちがいきいきと暮らしていた様子が、現代の街のようすからも計り知れる……京都のパワー、懐の深さも感じながら楽しむ散策。
「すでに京都好きの方であっても、歴史の中に入り込むことによって、今までとは違う京都散策ができるのではないかと思います」と酒井さん。
おすすめのひとつ、「おかめさん」を訪ねるコース
酒井さんが女人にまつわる場所を巡ったなかで「心に残る場所のひとつ」というのが大報恩寺(千本釈迦堂)。
「本堂は、鎌倉時代に建てられたままの姿を保ち、京都市内(京洛)で最も古い木造建築として国宝指定されています。兼好法師もこの本堂で寺籠りをしたという貴重なお寺ながら、観光コースからは外れているので、中世の雰囲気にゆっくり浸ることができます」
1227年に上棟され応仁の乱など数々の危機も乗り越えた奇跡的なスポットでもあります。
おかめ(阿亀)さんは、そんな大報恩寺とは切っても切り離せない人物です。
造営のときに棟梁だった夫の失敗を救って本堂完成に貢献しながらも、最後は自らを影の存在にすべく自害したと伝わっていて、今でも家内安全や建設の安全を願う人々から信仰を集めています。
「夫の名誉のために命を絶ったおかめさんは激しい烈婦のようでありながら、穏やかな性格の人だった模様。境内のおかめ像を見れば、その笑顔にほっこりするはずです」
展示スペースには、おかめ信仰を物語るおかめ人形などが、ずらり。京都では今も、上棟式に使用される御幣(ごへい)に、建物の安全を祈っておかめの面をつけるのだそうです。
ここに来たらついで!?甘味にも誘われる
大報恩寺をあとにして酒井さんが次に目指したのは、後醍醐天皇の中宮ゆかりの地である、金閣寺。そのルート上でフルーツパーラー「クリケット」に寄りました。
フルーツゼリーが有名なお店ですが、小腹が空いていた酒井さんは、くだものたっぷりのフルーツサンドをほおばったそう。
「今でこそあちこちでブームですが、京都は昔からフルーツサンドのメッカ。京都の奥深いフルーツ文化に思いを馳せました」
平安京ができて以来、さまざまな夢や欲望を抱きながら女性たちが生きてきた京都。そんな歴史の中に入り込めば、京都という街が持つ女性性に気づくはず。一味ちがう京都めぐりのお供になりそうな一冊です。
いろいろなスタイルで、あなたの旅のガイドにどうぞ。
『女人京都』
価格:1,760円(小学館刊)
酒井順子著
写真/酒井順子、取材・文・写真/原 千香子