【小泉今日子さんインタビュー・前編】映画『海の沈黙』を通して感じる「美しさ」の本質とは
11月22日(金)に全国公開された話題の映画『海の沈黙』で、脚本家・倉本聰さんの映画作品に初めて出演した小泉今日子さん。
共に花の82年組としてデビューした主演の本木雅弘さんとの関係や、映画のテーマでもある「美」をテーマに話を伺いました。
映画『海の沈黙』で本木雅弘さんと32年ぶりに共演。
映画『海の沈黙』では主演の本木雅弘さんの元恋人役を演じる小泉今日子さん。お二人が共演するのは、実に32年ぶりだそう。
「本木さんとはずっと会っていなかったわけではなく、時々会っていたんです。お芝居を一緒にしたらどんな気持ちになるんだろう?恥ずかしかったりするのかな? と思っていましたが、そんなこともなくできました。同期はたくさんいますが、交流が続いているのは本木さんくらいなんですよね。連絡を密に取り合ったりとか、すごく親しい関係ではないけれど、やっぱり特別な親友みたいな気持ちを私は抱いていて、本木さんが活躍していると嬉しいし、私もがんばろうって思える存在かな」
主人公の本木雅弘さんが演じるのは、孤高の天才画家・津山竜次。ある贋作事件を巡り、様々な過去や美への執念が描き出されます。
「前略おふくろ様」、「北の国から」、「やすらぎの郷」など数々の名作を手がけてきた巨匠・倉本聰さんが長年にわたって構想し、「どうしても書いておきたかった」という渾身のドラマで脇を固めるのは、中井貴一さん、石坂浩二さん、中村トオルさんなどの豪華俳優陣。
小泉さんが演じるのは竜次のかつての恋人で、現在は石坂浩二さん演じる画家の妻である安奈。有名画家の妻としての人生を受け入れているようでいて、アーティストとして、そして1人の女性として、心の奥底で密やかに種火を燃やし続けているような役柄です。
「今まであまりこういう役をいただいたことがなくて、こういう分野はちょっと違うのかな?と思っていたので、お話をいただいた時はうれしかったですし、自分にとってチャレンジングな役だと感じました」
美しいと感じる、その奥にあるものを大切に。
映画の舞台でもある美しい小樽のロケーションや、本木雅弘さん演じる天才画家の生き様を通して描かれるのは、人間にとって「美」とは何か?ということ。「美」の捉え方、向き合い方について新ためて考えさせられる作品です。
「美しさ」の捉え方は人それぞれ。小泉さんにとって「美しさ」とはどういうものなのか、聞いてみました。
「あらゆる瞬間に美しさを感じています。風景、人間、お料理や人の所作など、様々なものに美しさを感じますが、美しいと感じる基準を、自分の中できちんと作らなくてはいけないと思っています。
美しさの中には、恐ろしさとか優しさとか、何かが潜んでいたりするじゃないですか。美しさの奥にある本質や、なぜ自分がそれを美しいと感じるのか。その部分を大切にしたい」
「大多数の人が美しいと言ったとしても、自分がそう感じなかったら、その感覚を大事にしたい」と言葉を続ける小泉さん。自分自身の感性を信じるためには勉強や経験が必要だと感じ、20代の頃は時間を見つけては様々な国を旅し、美術館を巡っていたのだそう。
「理屈ではなく目の前の絵が好きか嫌いかを決めるためには、もっとたくさんの絵を観なくちゃいけないと思っていました。映画もたくさん観たし、本もたくさん読みましたね。美しいと思うものを自信を持って美しいと言うためには、足りないものを埋めることが必要だという感覚があって……。美しいと感じる心に、少しでも自分のための理由があれば、ずっと『美しい』って言い続けられるんじゃないかなと思います」
インタビューは後半に続きます。
『海の沈黙』
数々の名作を手がけてきた脚本家・倉本聰氏が長年にわたり構想をあたためてきた贋作事件をめぐる物語。『海の沈黙公式 メモリアルブック』(マガジンハウス刊)も好評発売中。
本木雅弘
小泉今日子 清水美砂 仲村トオル 菅野恵 / 石坂浩二
萩原聖人 村田雄浩 佐野史郎 田中健 三船美佳 津嘉山正種
中井貴一
原作・脚本:倉本聰
監督:若松節朗
製作:曵地克之
プロデューサー:佐藤龍春 製作会社:インナップ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
©2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
小泉今日子
1966年神奈川県生まれ。オーディション番組をきっかけに1982年デビュー。歌手として数々のヒット曲をリリースしながら俳優としても多くの映画やドラマに出演。2015年に制作会社「明後日」を設立。現在は舞台制作やプロデュース業にも力を入れる。
撮影/中村力也、スタイリング/藤谷のりこ、ヘア&メイク/磯島メグミ、取材・文/吾妻枝里子