冷水希三子さんのお宅を訪れると、誰もが室内を占有する器の量に驚きます。そして今もその買う勢いは衰えていないのだとか。その「器愛」について語っていただきました。
「同じ料理でも、器によって味の感じ方が変わるので、器は料理の最後の味つけであり、飾りつけ。食べてくれる人に器も見て味わってほしいし、その世界観を楽しんでほしい。ある種の〝お遊び〟みたいなものですね」
食卓の上の世界に憧れて、料理とテーブルコーディネートの仕事を始めて15年以上。職業柄とはいえ、出かけた先では、つい器を買ってしまうそう。
「何となく買ったものはひとつもないですし、今あるすべてが〝現役〟。古今東西を問わず、使うほどに味わいが増していく、経年変化を楽しめる器が好きです。気になるものがあると、お店の人と話をするのですが、そうすると、ほぼ100%買ってしまいます。器そのものに魅かれるのが始まりですが、最後は背景にあるストーリーやお店の人とのやり取りも全部ひっくるめて、その器を買っている感じがします」
「洋服と同じで、器も見ているだけではわからない」と冷水さん。「洋服は試着ができますが、器は難しい。なので実際に買って使って初めて、自分の料理や家や暮らしとの相性がわかる。器は机や椅子と比べて手に取り
やすく、つい買ってしまうんです」
今ある器はすべて、冷水さんの生活空間の中に呼び込まれ、結果、料理に家に、暮らしにフィットしたもの。「器は道具ではあるけれど、一緒に暮らす相棒みたいなものですね」
冷水希三子/ひやみずきみこ
料理家。フードコーディネーター。料理にまつわるコーディネート、スタイリング、レシピ制作を中心に、書籍、雑誌、広告などで活躍。http://kimiko-hiyamizu.com
『ku:nel』2020年7月号掲載
写真 加瀬健太郎 / 文 和田紀子 / 編集 友永文博