後藤由紀子さん『hal』が20周年を迎えました
静岡・沼津で暮らしの道具の店『hal(ハル)』を営む後藤由紀子さん。50代ならではの装い、台所の工夫、人付き合いのコツなど、暮らしにまつわるさまざまなことを紹介した著書を多数出版しています。日々の生活から生まれるアイデアや気づきは素直で等身大。多くのファンの心をつかんでいます。
そんな後藤さんの暮らしのエッセイをお届けします。
「いつかお店をやりたい」。その夢を持ち続けて
2023年2月2日に『hal』は20周年を迎えました。
東京から生まれ育った沼津へ戻ったのは24歳のとき。
そのころから、いつか地元で食堂をやりたいと思っていました。気心知れた友人や地元の知り合いの方たちにお昼ごはんを作ってあげたいと思っていたのです。
結婚後、息子と娘が生まれて、その夢は日に日に色濃くなっていきました。けれどもあるとき、娘が体調を崩したことがきっかけで、飲食店は子どもの不調などがあって休業すると食材の管理が難しいのではと思い立ち、雑貨屋にシフトチェンジ。
もともと食べることが大好きだったので器にも興味がありましたし、東京で器を扱う雑貨屋で働いていたこともあり、ごく自然な流れでした。
思い立ったが吉日と即座に不動産屋さんに電話をして条件などを伝え、子どもたちを寝かしつけたあとファックスを6枚受け取りました。それが『hal』の始まりです。
即決した物件はファーストフード店の倉庫でした
届いたファックスを片手に物件を見に行きました。そのひとつが、いまの『hal』がある場所です。
メイン通りから一本外れているため、それなりに人通りはあるけれど静かな場所。1階の物件であることと、トイレと小さな流しがあるだけの殺風景で簡素な造りが逆に面白いと惹かれました(元はファーストフード店の倉庫だった物件でした)。
お金も時間もなかったため簡素さを活かして内装はほとんどせず、蛍光灯を替えたくらい。物件を決めてから3カ月というスピードで開店しました。
といっても、当初は棚をいっぱいにするほどの商品はなく、売りものではない私物の写真集を飾ったり、私と夫がそれぞれ持っていた黒電話を並べたり。
お店を始めることを母に伝えたとき、実は反対されました。そんなに簡単なことではないし借金をすることになるかもしれないと。それもあって「半年やってみてダメだったら辞めよう」そう思って始めた雑貨店経営でした。
そして『hal』がオープン。商品が売れたら、そのお金で次の商品を仕入れる。初めのうちはそんな自転車操業状態でしたが、だんだんとお客さんが増え、雑誌などに私自身を取り上げていただいたりして、なんだかんだと続けてきました。
感謝の気持ちを忘れず、これから先も続けていけたら
お店を始める際、私がイメージしたことが3つありました。
ひとつめは、「主婦の人たちが気兼ねなく手に取れる価格設定であること」、ふたつめは「デザインされ過ぎていないシンプルなものを置くこと」、そして最後は「経年変化を感じながら長年使えるものを取り扱うこと」。その考えはいまでも変わっていません。
当初「お金ができたら改装しよう」と思っていたけれど、結局、そこまでの不便も感じず最初のまま。大家さんには本当に良くしてもらって、店と自宅が離れていたため、子どもたちが体調不良のときは「本日休業」の看板を出してもらうことが何度もありました。
臨時休業に加えて、子どもが小さいうちは15時閉店なんていうことも。お店としてはあり得ない営業時間ですが、子どもや家族のことを第一に考えてやらせてもらいました。
コロナでお客さんが減ってしまったこともありましたし、こまごまとした雑用なども多く、楽しいことばかりではありませんでした。
でも、こうして細々と続けてこられたのは、地元のお客さんはもちろん地方から訪れてくれたお客さん、取引先や作家さんたちがいてこそ。さらには、大家さんやアルバイトさん、そして私の家族も。
『hal』はみなさんに支えてもらっています。大感謝。
この20年の月日はあっという間過ぎて自分でもびっくりしています。きっとこの先の10年もあっという間に過ぎ去ってしまいそう!
これから先のことは私にも分かりませんが、20周年の感謝をして、これからも頑張っていきたいと思います。
『雑貨と私』(ミルブックス)
2023年4月には新刊『雑貨と私』(ミルブックス)を発売予定。いままでのお店のことについてもまとめています。
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この記事の
プレミアムメンバー
後藤由紀子
静岡・沼津で器と雑貨の店『hal』を営む。近著に『雑貨と私』(サンクチュアリ・パブリッシング)。ママ向けオンラインコミュニティ「ママカレ」(小田急電鉄)で講師を務めるほか、YouTube「後藤由紀子と申します。」も好評。voicy:ささやき女将のごきげんRadioも2022年よりスタート。
http://hal2003.net
Instagram:@gotoyukikodesu、@halnumazu