お手本にしたい向田邦子の美しい生き方2。「装い」も別格!抜群のセンスと女優顔負けの着こなし

向田邦子 ジャケットを羽織り。

作品はもちろん、おしゃれで食通、猫と旅を愛したライフスタイルが時代を超えて愛され続けている向田邦子。貴重な写真やエピソードから、その魅力を紐解きます。 代表的な作品をピックアップしたお手本にしたい向田邦子の美しい生き方1。日常の裏側を鮮やかに切り取った昭和の作家・脚本家 に続いて、「装う」をテーマにご紹介します。

かっこよさの背景にあるのは、知性と経験とエネルギー。

凛とした眼差しと映画から抜け出たようなファッション。若き日の向田邦子さんのポートレートは、抜群のセンスと女優顔負けの着こなしに驚かされます。公私ともに交流のあったスタイリストの原由美子さんは、1980年の雑誌の対談で初めてこれらの写真を目にし、こういうおしゃれを経験してきた人だからこそ、飾らない姿もサマになるのだと納得したのだそう。

向田邦子 若かりし頃のポートレート写真

映画雑誌の編集者としてキャリアをスタートした20代前半のポートレート。「クロちゃん」と呼ばれるほど黒い服が定番だった。

「対談のタイトルは『ローレン・バコールとマリリン・モンロー』。映画が本当に好きで、海外女優のおしゃれも研究してきたのだなと思いました。私がお会いした頃は仕事でお忙しかった時期で、いつもシャツとスカートといったこなれた服装でしたが、どこかかっこいい16歳年上のお姉さん。家が近く魚屋で遭遇したこともありますが、そんな時はサンダルで、生活感を隠さないところも素敵だなと思いました」

授賞式など晴れの席では友人のデザイナー植田いつ子さんのオーダーメイド。旅先ではサンドレス、仕事中は「勝負服」と呼ぶチュニック風のシャツなど、バリエーションも様々。「いい時期に植田さんに出逢われて、年齢やTPOに合うファッションに移行していたと思いますが、仕事用の服を仕立てるなど、あれだけ忙しくても、おしゃれや人生を楽しんでいらした。そのエネルギーに圧倒されます(原さん)」

向田邦子 ジャンセの水着

給料3ヶ月分をつぎ込んで買った『ジャンセン』の黒い水着。

向田邦子 ジャケットを羽織り。

チェックのプリーツスカートはなんとお手製。気に入るものがない時は、自分で服や帽子を作っていた。

気に入った“手袋”を探すように、生き方を選ぶ向田邦子さんの言葉。

二十二歳の時だったと思いますが、私はひと冬を手袋なしですごしたことがあります。その頃、私は四谷にある教育映画をつくる会社につとめていました。月給は高いとはいえませんが、身のまわりを整えるくらいのことは出来た筈です。にもかかわらず手袋をしなかったのは、気に入ったのが見つからなかったためでした。(中略)

今、ここで妥協をして、手頃な手袋で我慢をしたところで、結局は気に入らなければはめないのです。気に入ったフリをしてみたところで、それは自分自身への安っぽい迎合の芝居に過ぎません。本心の不満に変りはないのです。(中略)

でも、たったひとつ私の財産といえるのは、いまだに「手袋をさがしている」ということなのです。

「手袋をさがす」『新装版 夜中の薔薇』/講談社より

エルメススポーツのニットシャツ

脚本家として多忙を極めていた30代、40代は楽で上質なファッションへとシフト。気に入ったものは色違いで揃えることも。こちらは『エルメススポーツ』のニットシャツ。

PROFILE

向田邦子/むこうだ・くにこ

1929年東京生まれ。映画雑誌の記者を経てラジオ、テレビの脚本家に。エッセイスト、小説家としても数々の名作を残す。1980年には連作短編『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』で第83回直木賞を受賞。1981年、取材中の台湾旅行で飛行機事故のため急逝。

取材・文/吾妻枝里子、取材協力/かごしま近代文学館

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