伝説の雑誌『olive』を酒井順子さんと振り返り。「オリーブは新しい女の子像を私たちに教えてくれた」

オリーブ創刊号の表紙

10代の頃、夢中で読み込んだおしゃれのバイブル。パリ、リセエンヌ、おめかし、雑貨……。ときめき溢れる言葉たちとともに紡がれた、唯一無二の世界観。あの頃、ちょっぴり背伸びをしながら、ページをめくるたびにドキドキしていましたね。
そんな“元オリーブ少女”の心を、今もくすぐるロマンチックな言葉たち。高校生の頃には『オリーブ』に執筆していたという酒井順子さんとともに、その魅力を振り返ってみましょう!

“マーガレット酒井”こと酒井順子さんと探る、オリーブときめきフレーズの秘密。

高校生のころには“マーガレット酒井先生”として、『オリーブ』にコラム連載をもち、少女たちの憧れの的に。そんな酒井さんに、独自の世界観、そして読者に与えた影響まで、たっぷりと語っていただきます。

休刊して20年以上経つ今でも、伝説的に語られる『オリーブ』。元々は『ポパイ』の女の子版として、82年に創刊。当時『ポパイ』を愛読していた酒井さんは迷わず読み始めたそう。

「実は創刊当時、アメリカ西海岸風のファッションにフィーチャーした大学生向けの雑誌だったんです。突如、83年9月3日号から、女子高校生向けのロマンチック路線へと方向転換。そこからは皆さんがよく知る〝オリーブ伝説〟が始まります」

リニューアル後は、「リセエンヌ」(フランスの中・高校生の女の子)がオリーブ少女の憧れとして登場。さらにロマンチック少女やオリーブ少女をはじめとする多くのキラーワードで、おしゃれの扉を開けたばかりの女の子たちを虜にしていきました。

「当時の『オリーブ』では、〝かわいい〟の代わりに〝おしゃれ〟が多用されるほど、おしゃれをすることに真剣なファッション誌。服装やヘアスタイルだけではなく、持ちものやインテリア、食べるものに至るまで、全方位におしゃれであることを発信し続けました。「ここではないどこか」に行きたかった少女たちは、『オリーブ』が見せてくれる独自の世界観に夢中になりました。3日と18日という発売日には、書店へ走ったものです。雑誌の発売を心待ちにするワクワク感は、今でも覚えています」

高校生の酒井さんが、『オリーブ』でコラムデビューしたのは85年。91年まで、約6年間にわたりマーガレット酒井としてコラムを執筆していました。

「『オリーブ少女の面接時間』と題して、毎回さまざまなテーマで〝リセエンヌ〟と対談をするというもの。実際は私の経験談や思い出話を引っ張り出して、ひとり喋りをしていたのですが(笑)。私が連載を始めたのは、ロマンチック路線になったばかりの頃。80年代後半になると『ナチュラリスト』という言葉が登場し、シンプル&ナチュラルが大きなテーマに。それからは後期に突入しますが、連載終了とともに私も読者ではなくなりました」

誌面で大活躍していたイラストレーター仲世朝子さんの連載「のんちゃんジャーナル」。仲世さんが文と絵で、のんちゃんの日常を綴った。1987年2月18日号

夢見がちだけど実はしっかり者。真面目なオリーブ少女。

酒井さんは自身の著書『オリーブの罠』で、当時の他の女性誌は「モテ」を重視していたのに対し、『オリーブ』が提案するファッションやライフスタイルは、個性や自己表現を前面に打ち出していたと分析しています。

オリーブ少女は真面目な頑張り屋さんで、『誰かに好かれるために自分の信念を曲げる必要はない』という感覚を根っこに持っていたような気がします。たとえモテなくても、自分の好きな服を着ることを躊躇しなかった。改めて見返すと、友達や男の子、ママ、さらにはリセエンヌまでライバル視していたところもあって。その負けず嫌いなムードからは、自分を高めたい!という向上心を感じます」

印象的な言葉たちに宿っていたのは、揺るぎない〝芯のあるロマンチック〟。誰かのためではなく、自分のために自分の好きなものを大切にする。その感覚はきっと、今でも私たちの精神に息づいているはずです。

「ロマンチックって、決してぼんやり夢を見ることではないと思うんです。オリーブ少女は、おしゃれも勉強も抜かりなく頑張りたいタイプ。当時、専業主婦志向は、きわめて低かったと記憶しています。誌面では定期的にお仕事特集が組まれ、スタイリストやイラストレーターなど、ファッションやアート、カルチャー分野の職業がたくさん紹介されていました。そんな職業に憧れながら、オリーブ少女たちは限られた条件の中で努力していました。『オリーブ』は新しい女の子像を私たちに教えてくれたのだと思います」

人気の読者モデル、栗尾美恵子(現:Mieko)さんが初めてのパリへ。現地ロケでのファッション企画。1985年11月3日号(撮影:斉藤 亢)

酒井順子さんPROFILE

酒井順子/さかい・じゅんこ

1966年、東京都生まれのエッセイスト。高校在学中より『オリーブ』にコラムを寄稿。ベストセラーとなった『負け犬の遠吠え』(講談社)は、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞をダブル受賞。最新刊に『老いを読む 老いを書く』(講談社文庫)がある。

『クウネル』2025年7月号掲載 取材・文/阿部里歩、編集/鈴木麻子

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