スタイリストの草分け的存在・原 由美子さんが選ぶ「個性のある人の生き方を覗く」3冊
著名人の方にクウネル世代におすすめの本を教えてもらう「私の読書時間」。今回はスタイリストの草分け的存在である原 由美子さんにお話を聞きました。
自分をしっかりと持ち、 スタイルのある人たち。
スタイリストの先駆者として、長い間魅力的なスタイルを提案してきた原由美子さん。新刊『スタイルを見つける』で は服にとどまらず、食や住まいなど暮らしのスタイルについても綴っています。
「70年代から雑誌のファッションページ を作り続け、〝自分のスタイルを持ちましょう〟と書いてきました。最近は、仕事用の制服でもある紺の上着をいつまで 着るかしらと思うけれど」
読書にも変化があるそうで、学生時代 の『チボー家の人々』や『失われた時を求めて』などの大作から始まり、イアン・フレミングや松本清張のミステリー にはまった時期も。今は寝る前にほどよく区切りのつけられる作品を読むそう。そんな中から3冊を選んでくれました。
1冊目の『これでおしまい』は墨を使った抽象表現で知られる美術家・篠田桃紅の最後の著書。彼女の人生を振り返る
「人生編」と、人生哲学を短い言葉で伝える「言葉編」から成り立っています。
「1913年生まれで、この時代にこんな強い人がいたんだなと。着物の着方も 自分流で一種独特ですが、押しつけがま しくなく自然体で、惹かれました。〝洋服は人間の方が合わせなければならないけれど、着物は人間が主人であるから好き〟という意味の一言に納得です」
2冊目の『藤田嗣治 手しごとの家』 は、世界的な画家が手づくりした身の回りの品々を、豊富な写真や図版とともに紹介。カーテンやベッドカバー、絵の額、お皿や木箱、さらには旅先で蒐集したエキゾチックな品々まで、暮らしを彩ったさまざまなものが並びます。
「最初は彼の猫の絵とエッセイを集めた『猫の本』を見て、描き込まれたインテリアがあまりにもかわいいので、こちらも手に取りました。裁縫や大工仕事、木工制作と、当時男の人がここまで身の回りのものに手をかけて作り上げ、しかもそれがかわいいというのはすごいこと。
著者もよくこれだけの図版を揃え、本にまとめたなと感心します。独特の乳白色の肌の女性像やおかっぱのヘアスタイルなどで藤田を敬遠していた人にも、この本は新たな一面を見せてくれるはず」
3冊目の『お茶をどうぞ』は作家・脚本家の向田邦子の対談集で、親交のあった原さんもゲストとして登場しています。
「いろいろな雑誌に掲載されたものを集めた1冊。対談相手も脚本家やテレビディレクター、俳優さんとさまざまで、読み返すたびに面白い。向田さんにはよくしていただいていたので、もう少し親しんでいればよかったと思います。ご一緒した機会を通して、彼女の人を見る目の鋭さを感じましたね」
どの本もしっかりと自分を持った個性が光り、どこか原さんの新刊とも重なるような。そんな3冊が並びました。
PROFILE
原 由美子/はら・ゆみこ
スタイリスト
1970年の『アンアン』創刊に参加。 72年にスタイリストの仕事を始め、 以後数多くの雑誌のファッションペ ージに携わる。着物のスタイリングでも活躍。『スタイルを見つける』(大和書房)にはお気に入りの服やアクセサリーなどの写真も収録。
『クウネル』2024年9月号掲載 写真/木寺紀雄、ヘア・メイク/細田直弥・TEAM IKEDA、取材・文/丸山貴未子
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『クウネル』NO.129掲載
素敵に年を重ねるためにしたいこと、やめること
- 発売日 : 2024年9月20日
- 価格 : 1000円 (税込)