在仏歴50年以上の82歳。パリのカフェの「看板マダム」ができるまで【パリに暮らす日本人マダムvol.1】

日本でモデルして活躍した後、1973年10月に渡仏し、現在は娘の夫が創業したメゾン キツネ直営の「カフェ キツネルーブル」に勤務している石井庸子さん。長いパリ生活で培った自分流の賢い暮らし方について、ほか人生観やライフスタイル、日々の楽しみなどを伺いました。

フランス・パリに住んでいる日本の女性たち6名のライフスタイルを紹介する書籍『パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方』(主婦と生活社)から紹介します。

カフェで働き、暮らしを楽しむ。自分らしさを追求できる毎日が楽しい

石井庸子/いしいようこ

日本でモデルとして活躍した後、1973年10月に渡仏。パリの左岸パンテオンの近くで21年間バーを営む。現在は娘のロミの夫、ジルダ・ロアエックが創業したブランド、メゾン キツネ直営の「カフェ キツネ ルーブル」に勤務。

パリの「カフェ キツネ ルーブル」の看板マダムとしてその名を馳せる“ナミさん”こと、石井庸子さん。旧姓がナミカタさんだったため、ナミさんの愛称で親しまれています。いつも元気な石井さんは、手際良くお客さんの注文を取り、コーヒーを入れ、オーダーの品をサーヴしていきます。

今年で82歳。日本では、同世代の多くの女性は、ゆっくりと暮らしている人が多いようですが、石井さんは50年前に日本を飛び出し、はるか遠いフランスの地で働き続けています。そんな石井さんの姿をYouTubeや雑誌で目にした女性たちが、パリを訪れた際に、「カフェ キツネ ルーブル」にやってきます。

真っ赤なブラウスは40年前のケンゾー。「グリーンの麻のジャケットはラルフローレンのヴィンテージ。15ユーロだったのを10ユーロにおまけしてもらって買いました」

「大抵の人って、YouTubeではわざわざきれいな服に着替えたり、上品に話したりするでしょう?でも、私ったら口が悪いから、普段と全く変わりなく、なんでもつい正直にぽんぽんと言っちゃうわけ。だけど、そんなところがむしろ面白いんですって」

もちろん、決して口が悪いなどということはなく、気取らず飾らずフランクな性格が、なんとも居心地のいい雰囲気を作っているのです。

恩師のデザイナーのひと言がパリに住むきっかけに

石井さんがパリに住むきっかけになったのは、1969年のパリへの旅。デザイナーの水野正夫さんからのアドバイスがきっかけでした。

「私の父は東京で生地屋を経営していて、母は裁縫が得意でした。だから、洋服が好きな私はいつも、自分が欲しいと思った服の絵を描いては母に手渡して縫ってもらっていたんです。そんな私を見て、父は服飾の専門学校に行かせたかったようですが、私はモデルになりたくて、モデルの養成学校に進学しました」

そして、在学中に水野正夫さんの手掛けたオートクチュールドレスの仮縫いのフィッティングモデルを務めることになりました。その頃、水野さんに「一度パリに行って、サンジェルマン・デ・プレのカフェテラスに座って、街行く人々を眺めてごらん」と声をかけられ、石井さんはパリへ旅立ちます。

「実際に行ってみて、パリの街並みを行き交うパリジェンヌたちは誰もがみんな、自分の好きな服を着てさっそうと歩いていた。そんな姿を目に『あぁ、やっぱりセンスにあふれているんだなぁ、歴史がある街なんだぁ』って感動したんです」

左:24歳の頃のポートレート。右上:娘のロミさんと、モンマルトルの丘にて。右下:ロミさんとジルダさんのウェディングフォト。石井さんの隣は夫の孝行さん。

それから約4年後の1973年のある日、パリでバーを営んでいた日本人の友達から「ナミ、手伝いに来てくれない?」と、相談の連絡が。

「当時、私には父が決めた婚約者がいて、その人と結婚してアメリカに一緒に行くことになっていた。彼は家柄もよくてお金持ちのエリート。でも、どうしてもその人と結婚するのは無理だと感じてしまっていて……………。だから、縁談を断って欲しいと両親に懇願したんですけど、聞き入れてくれず。そこで、思い切って愛車を売ったお金を手にし、パリへと飛び発ちました。 友達のバーで働けるとはいえ、もちろん最初はまったくフランス語はできなかった。でも、アパートは優しい友達が貸してくれたし、フランス語の先生も紹介してくれて。とっても恵まれていたんですよね」

両親の反対を押し切って渡仏した石井さんは、その後、バー「マイルーム」を左岸のパンテオンの近くにオープン。そこに足しげく通っていたお客さんが石井さんの心をつかみ、結婚する流れに。

クローゼットに並ぶ服は、どれもシックな色合い。

「夫は日本のホテルオークラのレストランで働いたあと、ローマの日本大使館で料理人をしていたんです。その後、パリのレストランで働くようになった彼はバーによく来て、いろいろな話をしているうちに気が合って。彼はとても生真面目な人だから『パリでは籍を入れずに同棲し続けるカップルがたくさんいるけれど、僕はそういうのは嫌だから、結婚するか別れるか、どちらかはっきりして欲しい』って言われたんです。 私は結婚にはあまり興味はなかったけれど子どもは欲しかったので、『じゃあ、結婚しましょうか』ってことになったというわけ」

素敵なパリのインテリア

こじんまりとしつつも、リラックスできるリビングルーム。

キッチンの壁には、本物のコーヒーを使って描く作風で人気のイラストレーター・Anna Gorvits(アンナ ゴルヴィッツ)が描いた「カフェ キツネ ルーブル」と「メゾン キツネ」のブティックのイラストが。

旅先で出合った小物や家族との写真。思い出を飾る

クローゼットの隣に位置するベッドルームの棚。家族写真、旅先で出会った小物やぬいぐるみのそばに、よく身につけるブレスレットやリストウォッチが。

石井庸子さんの記事は、【パリに暮らす日本人マダムvol.2】に続きます。

好評発売中の本書では、このほかの魅力的な「パリに暮らす日本人マダムの暮らし」が

パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方

本書では、フランス・パリに住んでいる日本の女性たち6名にご登場いただきます。みなさんに共通するのは、ご自身の仕事のキャリアによって、現在の立場を築いた方々ということ。どの方々も、長いパリ生活で培った自分流の賢い暮らし方を実践しています。人生観やライフスタイル、日々の楽しみなどを伺いました。

〈登場〉
石井庸子さん(「カフェ キツネ ルーブル」勤務)/佐々木ひろみさん(「MAISON N.H. PARIS」デザイナー)/弓シャローさん(アーティスト、デザイナー)/篠あゆみさん(フォトグラファー)/角田雪子さん(「TSUNODA PARIS」デザイナー)/大塚博美さん(ファッションコーディネーター)

パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方』(主婦と生活社)
smile editors編 128P、1,760円

撮影/YOLLIKO SAITO、 編集・執筆/ 原 正枝

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